おちゃ的劇場型日記

社会不適合なのに元気な元文系大学院博士課程の現在・過去・未来。人によると波乱万丈らしい。

8階のベランダからずっと地面を眺めていた話。

あれは夏の頃だったか。
襟がびろびろに伸びたTシャツを着ていたことを覚えている。
 
なんだかよくわからないのだけど、食欲が沸かなくなった。
みるみる体重が5kg減ってしまった。
それだけだと夏バテのせいということにもなったのだろうが、なぜか眠れなくなった。
それだけならまだよくある話だったのかもしれないが、とにかく死にたくなってしまったのだった。
 
家人は思い過ごしと言って譲らなかったのだけど、自分の中で何かがおかしいと告げていた。
明らかに死にたいのだ。
なんとなく、「死にたいな〜」なんて言うのではなくて、はっきりと死にたい。死ぬしかない。そういう状態だった。
 
家人を説得して病院に行ってみることにした。駅前の割と大きな病院に行ったのだけど、そこではそんな人は診られないと言われて、他の病院に回されて、やっと診てもらえたのだけれど。
 
とにかく、「どうしても死にたい」ということを人に言うのが本当に恥ずかしくて、恥ずかしくて。
こんな恥ずかしいことないと思ったんだけど、なぜだか未だによくわからない。
冗談で軽く「あ〜死にて〜」なんてよく言っていたのだけど、本気のやつはなかなか人には言えないんだなって痛感したのを覚えている。
 
そっからは睡眠の日々が始まった。
アルバイトを全部やめ、食パンを朝一枚食べ、昼も一枚食べ、夜も一枚食べて、それ以外は寝ていた。
いつもつけている日記も書けなくなってしまって、その時の記憶があまりない。
 
強烈に覚えているのは、ただひたすら8階のベランダに出て、地面をずっと眺めていたこと。
どうして覚えているかというと、「死ななくてはならない」「死ななくてはならない」という衝動がかけめぐって、ベランダから飛び降りようとする気持ちと、それを止めようと必死で棧を掴む腕と、そのせめぎあいでただ立ち尽くすしかなかったから。
 
その衝動が来ると、家人を起こさないようにそっとベランダに出る。あとは腕と脳との勝負だった。
そしてずっと、体が冷え切るまで戦っていると、家人が気づいて連れ戻す。
 
そんな日々だった。
 
原因はよくわからない。
あの頃は相も変わらずお金もなくて余裕もなくて、アルバイトの日々。研究はとっくの昔に諦めている。
それが当たり前のように続いていた時期だった。
特段衝撃的なことがあったわけでもない。
 
だけど寝て寝て寝て、ベランダに立つことがほぼなくなって、寝るのに飽きたおいらは、なぜか就職することを思い立つ。
そしてその2ヶ月後に、30も手前にして最初の会社に新卒入社するのである。
 
ある種の脱皮だったのかもしれないね。
あの時一度死んで、もう永遠に帰ってこない。
 
でも、今の会社(まともな人が行く会社)でなんで大学院辞めたのか聞かれて、「一回死んだんですよ〜」とか言うと空気がガッチガチに凍る。素人にはお勧めできない。